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大阪高等裁判所 昭和37年(く)96号 決定 1962年12月25日

少年 K(昭一八・一二・一〇生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原決定はその処分に著しい不当がある。すなわち、原決定の非行事実の認定に重大な事実の誤認があると主張するわけではないが、少年の保護事件の審理方式は糺問手続であつて非行事実を認定するについて少年の人権が十分に擁護されているとはいえない、特にその処分が少年院送致の決定である場合はかなり厳格な事実認定を必要とする。本少年は本件非行事実において主導的役割でもなく、本件のU子も被害者というより本件非行の加担者とも思われ、その他中○○一の妻及び中○○一からそれぞれ金員を受領した所為にしても一連のもので、本少年の非行事実では少年院送致決定は妥当でない。又少年に対する要保護性にしても、少年は既に改悛の情が顕著であり、被害額の弁償がなされているのはもちろん、少年の保護者においても少年に精神的安定を得させ、生活に責任を持たせるため、少年につき婚約させ、又アパートを建築してこれを経営させる積りの矢先に本件であつて、保護者は少年に対する指導、監督の熱意がないとは言えない。原決定のとおりになれば、少年のみならず、姉の破談も生じ、ようやくにして秩序を得たかにある少年の家庭に破綻を来すものである。よつて原決定の取消を求めるため、本件抗告に及んだと言うのである。

よつて一件記録を精査し案ずるに、なるほど少年保護事件は通常の刑事被告事件とはその手続を異にし、当事者主義を取つているとは言えないが、原決定の非行事実の認定は被害者、共犯者等各関係者の警察、検察庁の供述調書、家庭裁判所調査官の調査及び審判廷における在席の少年本人、保護者、附添人(弁護士二名)のそれぞれの意見陳述に基き、なされたもので、少年の人権を保障しえない審理のもとに原決定がなされたものとは言えない。しかして、原決定が認定の本件非行事実の動機、罪質、態様始め一件資料により認められる本少年の非行事実における積極性及び非行歴そして保護観察中であるのに拘らず保護司との連絡も絶えている状態で、その他性格、生活態度、家庭環境、保護者の保護能力などを総合すると、少年の矯正は安易な手段では効果がないとの判断のもとに、収容保護を必要とした原決定は相当で、本件抗告は理由なきものと言うべく、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本圭三 裁判官 三木良雄 裁判官 細江秀雄)

別紙一

抗告申立書

抗告人

上坂明

葛城健二

上記少年に対する恐喝保護事件について、昭和三七年一〇月二日なされた中等少年院送致の決定は下記事由により取消されたく抗告を申立てます。

第一原決定はその処分に著しい不当がある。

(一) 非行事実の認定について重大な事実の誤認があると主張するわけではないが少年の保護事件についての審理方式は糺問手続であつて非行事実を認定するについて少年の人権が充分に擁護されているとはいえない、特にその処分が少年院送致の決定である場合、形式的には保護処分であるから少年の利益を害する筈がないと一応は言い得るにしてもその実質は人身の拘束を伴うものであるから、収容施設の現実の状態と併せ考えるとき少年院送致の決定はかなり厳格な事実認定を必要とするのである。

本件についていえば省みて他を云う共犯者の常として、I、Oの供述調書によれば少年Kが主役を演じたような供述があるけれども、これをKのみの責に帰すべき事由ではないと考えられる。なんとなれば同人は少年であり、仮に同人がおだてられて主導的役割を演じたとしても、I、O等はこれを制止すべき立場にあつたのである。

U子も被害者というよりはむしろ本件非行に加担したと思われるような供述も存在するのである。もちろん成人の事件として処理されるのであればこのような不純異性交遊は起訴事実の対象とはなり得ないのであるが、少年事件であるため原決定に影響を及ぼす事実として認識されているのである、昭和三七年八月二八日午後二時三〇分頃中○○一の妻○エから二、〇〇〇円受取つた事実、同日午後八時三〇分頃中○○一から五、〇〇〇円受取つた事実は少年も認めるところであるが、これらの事実は一連のものとして斟酌されるべきものであり、これらの事実が認定されたとしても少年院送致の決定が妥当なものでめるかはすこぶる疑問である。

(二) これを要保護性の認定についてみると、その程度に比して処分が著しく不当であると思料される、すなわち審判廷における少年の供述からみても少年の改悛の情が顕著であること、被害額の弁償がなされていることはもちろんのことであるがさらに少年の保護者において、本件非行事実以前に少年に精神的な安定を得させ生活に責任を持たせるために婚約させ、まだ少年であり生活に不安があつてはいけないということでアパートを建築してその生活安定を考慮していた矢先の出来ごとだつたのである。原決定はその要保護性について保護者が少年に対する指導監督に十分な熱意がなくかえつて類型的であること、これらの事情を無視して少年院送致の決定をなしたのはその処分が著しく不当であるといわざるを得ないのである。

原決定により、本人の婚約の破棄されるのは当然のことであるとしても姉○美の破談、ようやくにして秩序を得たかにある少年の家庭に新しく旋風を捲き起すに足るものである。

以上要するに非行事実の認定について少年の人権を保障しえない審理のもとにその要保護性の認定をあやまり、在宅保護で充分であるにもかかわらずその程度に比して処分が著しく不当であるから原決定の取消を求めるため本申立に及びます。

別紙二

原審決定(大阪家裁 昭三七・一〇・二決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一 非行事実

少年は、

I、O、Nと共に、昭和三七年八月二七日午後八時過頃、大阪市○○区△△百貨店南裏の喫茶店街を通行中のU子(当一八年)を言葉巧みに執ように誘引し、同区△町所在××旅館につれ込み、Nを除く少年ら三名が交互に同女と性交を遂げた上、一泊した。その際同女が所持していた手帳から、中○正○(当一八年)の氏名を見つけるや、同女に同人との関係を追求し、同女が同人と肉体関係があつたことを認めるや、これを奇貨として、因ねんをつけて金品を喝取しようと企て、少年、I、O、Nの四名は共謀のうえ、

第一 翌二八日午後二時三〇分頃、八尾市○○××番地中○○一(当五七年)方に赴き、応待に出た同人の妻○エ(当五二年)に対し、「息子は居るか。女を取られて黙つておれるか。判つているだろう。連中はみかけのとおりうるさい連中だ。」などと申し向けて暗に金品の交付を要求し、若しこの要求に応じないときは同女ら家族に対しいかなる危害、不利益を蒙らせるかもわからない威勢を示して、同女を脅迫畏怖させ、よつてすぐその場で同女から車代名下に現金二、〇〇〇円の交付を受けてこれを喝取し、

第二 同日午後八時頃、再び同所に赴き、中○○一及び中○○治(当二五年正○の兄)を相手に因ねんをつけていたところ、○一が少年らに外へ出ることを要求したのを気にいらぬとして、同市○○××番地△△酒店前路上まで○治を追いかけ、同所で手拳や木箱で同人の頭部や顔面を殴打する等の暴行を加え、よつて同人に対し治療約一週間を要する頭部、顔面打撲の傷害を加え、

第三 更に同日引続いて同所において、前記中○○一を少年らが乗つてきた乗用車に同乗させ、同人の顔面を平手で数回殴打する等したうえ「お前自分の家内をとられたら、どんな気がする。お前の息子に女を取られたから話つけに来ておるのや。」などと申し向けて、暗に金品の交付を要求し、若しその要求に応じないときは、同人ら家族に対しいかなる危害、不利益を加えるかも知れない気勢を示して同人を脅迫畏怖させ、よつてその頃同市○○神社附近において、同人から現金五、〇〇〇円の交付を受けて、これを喝取したものである。

二 適用法条

第一、第三の行為はいずれも刑法第二四九条第一項、第六〇条

第二の行為は同法第二〇四条、第六〇条

三 処分の理由

少年にかかわる少年調査票、大阪少年鑑別所鑑別結果通知書を併せ考えると少年の健全なる育成を期するためにはその性格これまでの行状、環境の状況等に鑑み中等少年院に収容して指導訓練を施すのを相当と思料する。よつて少年法第二四条第一項第三号により主文のとおり決定する。

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